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発表者インタビュー

がん患者の家族が願うゆとりのある環境

 

石森 恵美(いしもり えみ)さん(60歳)

(プロフィール) 
2010年に夫、翌年に義姉、さらに次の年に義母をいずれもすい臓がんで亡くす。夫の意思を尊重し、周囲にはがんであることを伝えずに5ヵ月間の闘病生活を支えた経験から、がん患者家族が悩まされる課題や、“あらがえない現実”について伝えている。フリーアナウンサーの仕事を続けながら、がん患者さんへのボランティア、がんに関する各学会・大学等で講師やパネリストとして活躍中。

コロナが明けたら、「昨日の続き」で再会したい

私は、ある病院のホスピスでボランティアをしているのですが、コロナ禍でこの2年間活動できていません。再開されたら「久しぶり」ではなく、ふつうに昨日の続きのように接したいと思っています。なぜなら、終末期の患者さんは昨日の続きの今日、その続きの明日が大切だから。
ACP※1が大事というのも今では理解できますが、余裕のない患者さんやその家族にとっては「昨日と同じ今日」、24時間が内容の濃い人生だということを夫の死で体験しました。

夫の死から12年、コロナ禍中に思うこと

夫の死で、どれほど頑張っても祈っても変えられない現実があるということを知りました。そのおかげかコロナ禍でも、ある意味、方向転換の機会のように感じることができています。
この12年をふり返ると緩和医療やがんをとり巻く環境は大きく進化した一方で、家族の抱える課題は残されたままのような気がしませんか?相談したくても医療者の皆さんは忙しく、ゆとりがもてない状況かもしれません。しかし、かつての私のように知人や友人へ悩みを打ち明けられず独り闘っているご家族へ、まずはお茶やコーヒーを出してくださる場所だけでもいい、ゆとりをもって寄り添う環境が整備されることを心から願っています。

悲しみはずっとあるけれど、物事は乗り越えられる!

誰もが、大切な人を看病をしているときや看取ったあとは悲嘆やグリーフ※2に襲われることがあると思います。ただ、亡くなるまでの大変さは通過点にしかすぎません。私と私の息子2人は、この12年間ずっと悲しみはもち続けながらも、夫の人生をひとつ一つ丁寧にしまい、そして少しずつ生活を立て直してきました。
悲しみの感情をもてあますことは恥ずかしいことではありません。わがままになってもいいし、悪あがきしてもいいと思います。そのときに、手をさし伸べてくれる人は絶対いる!と伝えたいのです。
学校の校長だった夫の死を察した友人や職場の先生方は、おそらく相当な覚悟をもって当時の私に手をさし伸べてくれました。私のように、「最終的に責任をとるのはすべて自分」と独りで抱え込まずに、寄り添い向きあってくれる人へ甘えてみてはいかがでしょうか?

※1 ACP(アドバンス ケア プランニング、Advance Care Planning):将来の変化に備えた医療やケアについて、家族や近しい人と介護者および医療チームで繰り返し話し合い、本人による意思決定を支援すること。

※2 グリーフ:喪失体験や深い悲しみ、大切な人を失ったときにおこる身体上ならびに精神上における変化のこと。