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2021年 アッヴィ 自己免疫疾患 アートプロジェクト
受賞作品詳細 ・受賞者コメント

■最優秀賞(1名)

北条 かず子 さん[仮名](関節リウマチ 埼玉県在住 90歳)  

作品タイトル:「浮かれ地蔵」(絵画)

●受賞者コメント・作者の想い

応募させていただいた作品は、陶器好きの次女の家の床の間に飾られていたお地蔵さんの置物で、目が留まり軽くスケッチして持ち帰り、そのまま引き出しに。
数か月経ったある日の夜、仕事から帰ってきたお婿さんが言った「お母さん、お月さんがきれいだよ」の言葉に促され外に。生まれて初めて見る「スーパームーン」は、住宅と住宅の屋根の間に挟まれたような形で、明るすぎるけれど穏やかで神秘的な光でした。そこで思いついたのが、スケッチしてきたお地蔵さん。合体させてみたくなったのが、今回提出させていただいた「浮かれ地蔵」、ちょっとふざけた作品です。何事も弱気になりかけていた折も折、大きな「喝」を受けたと思い、残された時を大切に生きていきたいと思います。

●審査委員 講評:サルコイドーシス友の会 会長 佐藤 公昭 さん

関節リウマチに罹患され、指先に力が入らず、思うように動かすことが難しいはずの手で、とても細やかな作品を制作されています。リハビリのためにと描かれたお地蔵さんは、笑顔で穏やかな表情です。病に負けず、心穏やかに過ごしておられるのだと思います。
6体のお地蔵さんには、欲や迷いを断ち切って、心身が清らかになること = 六根清浄の意味が込められているように感じました。満月に照らされた夜の明るさからは、難病 (= 夜)であっても、前向きに生きる (= 明るさ)という気持ちが伝わってきます。病気と向き合いながらも、心や身体、症状の改善を目指して作られた本作品は、希望や目標などを表現するPERSPECTIVESの理念にまさに相応しいと思います。

■優秀賞(2名)

中手 拓哉さん(クローン病 兵庫県在住 32歳)  

作品タイトル:「龍と麒麟と折れたツノ」(絵画)

●受賞者コメント・作者の想い

私は大学生の頃にクローン病を発症しました。これまで治療を受けた病院やクリニック、主治医のおかげで症状は落ち着いています。しかし、20代の終わりに、他の部位で数値が悪化し、気を抜けない日々が続いています。寛解状態ではあるものの、クローン病が関係ないとは言い切れないとの見解もあり、日々、自己との戦いだと痛感しています。
闘病を通して、「生命も健康も有限で、でも命が尽きるまでは、ひたむきに生きていくだけだ」という価値観を得ました。完治しないという暗さが消え切らない中での前向きな想いを作品として形にしてみました。これからも、作品制作や仕事の中で、自分にできることをひたむきに頑張る大切さを表現していきたいです。

●審査委員 講評:北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター
センター長 日比 紀文 先生

未だ根本治療のない病気と向き合い、ご自身の不安、恐怖、葛藤などを、想像上の生き物である龍を用いて力強く描かれているのが印象的です。全体的に鮮やかな色が多い中、少し暗めな枯れ草色を中心とした緑色の空、血液の色を思い描くような山々など、自分の中にある気持ちや想いが伝わってきます。
ご自身の現在の感情、未来への不安感が、絵のタッチや色使いでうまく表現されています。将来に向けての不安感はなかなか拭えないものですが、最近の治療の進歩は著しく炎症を抑えて、多くの患者さんが普通の日常生活ができるようになってきました。龍のようにたくましく病気に挑戦され、将来が充実したものとなると確信しています。

小林 裕美子 さん(関節リウマチ、シェーグレン症候群 北海道在住 56歳)

作品タイトル:「1年 365彩(いろ)」(手芸)

●受賞者コメント・作者の想い

私は28年前、28歳の時にシェーグレン症候群と診断されて、今年で56歳になりました。「ハーフ&ハーフ?」と思っていた年に大変うれしいです。28年前の私は治療法のない病気だと聞いて、いじけて悲観し将来の自分の姿など考えられませんでした。でも現在の私は、あの頃に思っていたよりも元気に生活しています。本当は見た目ほど元気でもないんだけど…でも、まあ、これくらいでも良しと思えるようになりました。
毎日、何かと思い通りにならないのは健康でも病気でも、大、小、皆あると思います。今日はどの気分のハートかな?365日分のハートを皆さまに楽しんでいただけたらうれしいです。主治医の先生にも喜んでいただけたら幸いです。先生には28年お世話になり、とても感謝しています。そして先生と同じくらい長くお世話になっている看護師さん、いつもありがとうございます。「1年 365彩(いろ)」を評価くださり、ありがとうございました。

●審査委員 講評:公益社団法人日本リウマチ友の会 会長 長谷川 三枝子 さん

1年365日、雨の日・風の日・そして晴れの日と一日も同じ日はありません。リウマチとなって28年、痛みで眠れない夜、だるくてお皿が持てず食事の支度が満足にできなかった日、人と口をきくのも嫌な日もあったことでしょう。そんな日々の気持ちの支えになったのが、好きなリースづくりだったのですね。
丸いリースは“始まりも終わりもなく永遠に幸せが続く”と、一日一日ハートづくりに心を込めて365日。病気と向かい合い乗り越えてきた心が形となった彩り豊かなハートのリース。このリースの彩りに、思わず足が止まって見入ってしまいました。

■審査員賞(2名)

ノリタカさん[仮名](潰瘍性大腸炎、双極性障害 京都府在住 34歳)

作品タイトル:「輪廻の眼差し」(木彫画)

●受賞者コメント・作者の想い

京都で闘病作家として活動しています。応募のキッカケは、SNSで繋がりのある同じ疾患(IBD)の方から紹介いただき、このアートプロジェクトを知りました。
私は物心ついた頃からものづくりが大好きで、今思えば過去の仕事や趣味、すべての根本はそこにあったように思います。自分自身を形成したものが、ものづくりでもあり、闘病の中で自身を救ってくれたものもまた、ものづくりでした。もちろん作品づくりは自己満足でもあり、自己表現でもあります。しかし、一番大切なコンセプトは「好きなことを生きるエネルギーに」という点です。私は自己免疫疾患以外にも、精神疾患も持っています。そんな中でたくさんの人と出会い、いろんな方の闘病体験や、その人たちの葛藤に触れてきました。
「何を生きがいにして生きたらいいのかわからない」そんな中で好きなことに取り組むことで気持ちを整理したり、前向きになれたらと思い、今に至ります。作家活動は、自分が自分らしく在るためでもあり、誰かの生きがいや、闘う勇気、前向きになれる希望を持つキッカケになればと思います。これからもそんな想いで、発信し続けていきたいと思います。

●審査委員 講評:NPO法人IBDネットワーク 副代表理事 秀島 晴美 さん

最初にこの作品を見たときに、この猫の瞳に強く惹かれました。曇りない眼で、揺るぎなく、ずっと向こうの何かを見つめているようでした。ご病気のことは詳しくは書かれていませんが、つらい思いをたくさんされて、それでもその中で前を見据えて生きてこられたのではないでしょうか。
ご自身の苦しくつらい時間が希望の光へと変わって、今はお仕事やものづくりを通じて、誰かの苦しくつらい時間に明かりを灯していらっしゃるのですね。作品を見て、そして作品の説明やエピソードを読んで、様々に想像いたしました。これからも素敵な作品を作ってください。

岩本 紗和 さん
(若年性特発性関節炎(小児リウマチ)、非感染性ぶどう膜炎 茨城県在住 8歳)

作品タイトル:「走りたい」(絵画)

●受賞者コメント・作者の想い

わたしの絵を選んでくれてありがとうございます。わたしは赤ちゃんのときからびょう気で足がいたくてたくさん歩いたり、走ったりできません。
本当は友だちと休み時間に外であそびたいです。そういう気もちを絵にしました。絵のようにたくさん走れるようになりたいです。

●岩本 紗和さんのお母さん・ゆう子さんのコメント

前回、前々回と賞をいただいておりましたので、まさか今回も選んでもらえるとは思わず、大変驚いております。ありがとうございます。昨年から現在まで調子の悪いことが多く、ひざや足首の痛みはもちろんですが、手などにも痛みが出てしまい、毎日の生活が大変なことが多いです。目のぶどう膜炎も再燃してしまいました。本当にコントロールの難しい病気で、本人はつらい思いをしていると思います。
娘は学校でも家でも絵を描いたり、何かを作ることが好きで、絵を描いているとお友達が集まってきてくれるそうです。絵や何か作品を作ることは、娘にとって自分の存在を示す大切な手段なのだと思います。これからも完治を目指して家族で頑張りたいと思います。

●審査委員 講評:日本AS(強直性脊椎炎)友の会 副会長 山下  昭治 さん

「明るいなぁ、元気良さそう・・・ひまわりに向かって走っているのかな? ひまわりと走っている子の赤い色は元気の良さなのかな、血液が身体中にみなぎって頑張っていることを表しているのかなぁ・・」などというのが第一印象でした。
1歳から発症されて8歳の今日まで病気と共に成長され、思いっきり走ったこともない暮らしの中からこの力強い作品が生まれたのですね。お母さんの願い以上に、ひまわりのように力強く、明るく、病気に負けず成長されていっていることが、よく分かる作品だと思いました。
これからも一生懸命生きる姿で、周りの人を元気一杯にしていってください。 笑顔にしてください、 励ましていってくださいね。今まで8年間、見事に歩んで来ていますよ!!

■佳作(4名)

ながた わかこさん[仮名](EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症) 大阪府在住 51歳)

作品タイトル:「今日」(絵画)

●受賞者コメント・作者の想い

この度は、久しく忘れていた創作の楽しみ喜びを思い出させていただいたことを心より感謝しています。
発症した日から、一つひとつできていたことができなくなり、何もかも奪われていくような、そんな気持ちで過ごす中、たくさんの方々に助けてもらいました。失うことより、今日ここにある喜びに目を向けられるのも、支えてくれた家族、友人、医療関係の皆さまのおかげです。健康は失いましたが、その何倍も得たこともあります。とはいえ、健康というのはとても大切なものです。今、健康という賜物をお持ちの方はそれを大切に、どうか大切にされてください。様々な疾患と戦う皆さま、体がだめなら心が、心がだめでも魂が元気ならばと、「今日」の楽しみに目を向けて生きてまいりましょうね。

●審査委員 講評:社会福祉法人聖母会 聖母病院 皮膚科 部長 小林 里実 先生

難病の発症、突然の出来事で本当にショックだったと思います。
歩けなくなる、目が見えなくなるなど、血管や神経の炎症で突然機能が失われることがあるこの病気、「なんで私が」、とはじめは愕然としたことでしょう。病気が進行する毎日は周囲も見えなくなるほど心が閉ざされていくのですね。それでも心が前を向いた時、すっと、あなたの心に差し込んだ一筋の光のようにあざやかに浮き上がった光、そこで以前と変わらず蝶々たちが自由に遊ぶ光景を目にした時、閉ざされていた心が溶けていく様子が見事に描写されています。
大丈夫、あなたに生きてほしいと願う家族がいる。あなたの知らないところにいらっしゃる、以前のあなたと同じ想いに打ちひしがれている方々の光になってください。

М・I さん[仮名] (関節リウマチ、好酸球性筋膜炎 北海道在住 56歳)

作品タイトル:「まりもー私は阿寒湖のまりもでいられたー」(陶芸) 

●受賞者コメント・作者の想い

何よりもうれしかったのは、コロナにより、日々感染対策を怠ることなく、緊張の糸を緩めることもできない中でも、いつも安心をもたらしてくださる病院関係者の皆さま、特に長年お世話になっている主治医の先生方、クリニックの関係者の皆さまにこの受賞のお話をさせていただくことができたこと、またご自身のことのように喜んでいただけたことです。いつも支えてくださる陶芸スタジオの皆さま、友人、家族にも明るい話題ができたこと、すべてが何よりの喜びでした。
ニュースで「7年ぶりに低気圧によりまりもが打ち上げられた」と知りました。作品名「まりも-私は阿寒湖のまりもでいられた-」は、まさにこの一見致命的とも思われる自然現象ですが、実はまりもはこれを繰り返し…あの丸い形で長年阿寒湖の底で生息しています。ここに、自分の病気との生き方を映し作品を制作しました。

●審査委員 講評:若年性特発性関節炎親の会 あすなろ会 事務局担当理事 牧 美幸 さん

作品を一目見て、「まりもの球体の中にご自身の人生や気持ちが込められているな」と感じました。制作中に作品にひび割れが起こってしまうというトラブルも人生に見立てて、「色々なことはあるけどそれもよし」「全てのことは人生の糧である」「結果よし!」と、感じました。
また、こちらの作品は直径25センチほど、そして重量もかなりあり、制作にあたり、大変な労力と時間がかかったことと容易に想像できます。病気の治療も同じで、状況を良くするためには、前向きになる気持ちの力と、状況を良くするための時間がかかると思います。「制作にかかる時間=治療にかかる時間」そして「まりも=人生」が表現されていると感じました。

中尾 順子 さん(腸管型ベーチェット病 岡山県在住 57歳)

作品タイトル:「あなたに守られて」(写真) 

●受賞者コメント・作者の想い

私は40歳から会社を経営しており、時間に追われる予定をなるべく減らしています。その日その日で、体調の良し悪しはありますが無理をせず、休める時はゆっくりと過ごしています。私は今のところ、目の症状はありませんが、いつ発作が起きても悔いのないようにたくさんのものを見て、感じて、趣味の写真も続けたいと思います。
今回応募しましたホタルの写真「あなたに守られて」は、ホタルの環境を守ってくれる地域の皆さんのおかげで、季節になるとホタルが舞い踊り輝きを放ちます。自然を守っていくことも、私たちが健康で生活できることも、誰かの力をいただいて初めて叶うことだと思うのです。力を合わせて色々なことが実現するのだと思います。今回の受賞を励みに、より一層精進してまいりたいと思います。

●審査委員 講評:ベーチェット病友の会 多田 加代子 さん

自然豊かで守られた場所でしか生き残れない希少なヒメボタルが美しく舞い光る姿を撮影した作品。無数のヒメボタルが、小さいながらもストロボのような黄金色の光を点滅させ、美しく光っています。撮影技術もあるのでしょうが、その光が点だけでなく、少し尾を引いた様にも重なり、とても綺麗で素晴らしい写真です。
作者の方が患っているベーチェット病は、慢性的に症状が急激に悪化したり、日常生活に戻れるほど良くなったりを繰り返すという、経過に波がある珍しい病気です。「あなたに守られて」という作品タイトルにもある通り、自然環境が懸念される中頑張って生きる華麗なヒメボタルに見守られながら、この病に立ち向かい、心の支えになっている様子が感じられる作品だと思います。

馬目 陽太 さん(全身性強皮症 埼玉県在住 42歳)

作品タイトル:「SKATE Boarding has no boundary」(版画)

●受賞者コメント・作者の想い

全てを受け入れて。疾患の有無に関わらず納得するために。
「納得することはすべてに優先する。」疾患が教えてくれたこと。
そして、やはり感謝の気持ち、あやまる気持ち、許しを乞う気持ち、愛する気持ち。うまく言えませんが、常に心のどこかにある気持ち、そして、どんな人も何物にも縛られずに自由であること、それを忘れないで生きていく。

●審査委員 講評:NPO法人東京乾癬の会P-PAT理事 木戸 薫 さん

この作品を拝見した時、スーッと引き込まれ、描かれている“手”からパワーを感じました。「何のメッセージがあるのか?」とエピソードを読ませていただき、作者のつらかった当時の想いが伝わってきました。当たり前にできていたことが制限されてしまう状況、病気を受け入れるまでの葛藤、心のあり方は、私と病気は違いますが、共感できる部分があります。
大好きなスケートボードを通じて、勇気や励ましを与えることができる機会があると思います。すべてを受け止める覚悟ができた今、I LOVEのメッセージがとても素敵です。

総評

●美術家 佐久間あすか 氏

前回に引き続き本プロジェクトの審査を担当させていただきましたが、今回の作品も逸品揃いの素晴らしいアートばかりでした。特に、今回は、絵画、木彫画、陶芸、立体作品等の多分野にわたる個性あふれる作風が多かったことが印象的です。惜しくも受賞を逃した作品もとても素晴らしいものが多く、選考の難しさを感じながら、厳正な審査の下、受賞作品を選出いたしました。選考に関しましては、技術力で評価するのではなく、難病と闘いながらも、魅力や表現力あふれる作品であるかを評価の基準といたしました。特に、受賞作品は表現方法は違えども、どの作品にも力強いメッセージが込められていて、同じ病と闘う方々に希望と勇気を与えてくださることと思います。審査を通して、素晴らしい作品に出会えたことをうれしく思い、これからもアートを通して、たくさんの人々を感動させて欲しいと願います   

過去の受賞作品・応募作品について